梅ちゃん先生(第13週)/医師の自覚


今週は展開が全体の大事な勘どころだからか、ほぼヒロイン集中エピに終始してた分、
より梅子の心情変化に細やか、かつ的確にフォーカスした内容に仕上がっていたように思う。

先週、いやもっと前からか、本編中にハタと気づかされた事があって、それが坂田の苦い過去語りで
さらに明瞭化したと云うか、書き手の狙いはやはりそこかと得心がいったんだったが、

以前の、具体的には父建造のヤミ米拒否や兄竹夫とあかねの破局エピの時、梅子は食事がのどを通らないほど
秘かに悶々と悩む様子を見せていた。それが大学病院の患者の1人として気にかける弓子に対しては、
心配してはいても食事は普段通りだと、岡部のからかい気味の(心配し過ぎて食事も満足に取れてないとか?な)
勘ぐりに、梅子が幾分バツが悪そうに答えていたのが、奇妙に印象に残っていた。

リアルに於いて人が人に好意なり善意なり示す場合に、それはまんべんなく
誰でも一律に同じ程度に、なんてことは絶対にあり得ないわけで、本人は意識せずとも自分の家族、
自分の身内、付き合いの長いだの深いだのの人への思い入れが、さほどでもない人より強くなるのは、
こればかりは「理」で割り切れない人のもつ「情」の部分でもあるんだが、

そういった、人なら誰しもが持つ偏り(対象を無意識に区別/分類してしまう性)を
本作ではきちんとヒロインに負わせている点に、その朝ドラらしからぬリアルに、感心するし興味を覚える。
梅子は朝ドラヒロインの規格外とも云えそうな、リアルに近い人間臭さを持ち合わせている。
本編はそこを朝ドラヒロインのお約束的な上っ面のキレイゴトで誤魔化さず、はっきりと描いている。
差別からも偏見からも完全には逃れられないヒロイン、朝ドラだからと例外扱いされないヒロイン、
人としての矛盾や限界を内包するヒロイン、この一点だけでも画期的な試みだと思う。

なるほどなあと感心していると、金曜放映分では坂田が梅子に「人を助けてる、なんて医者の傲慢でしかない」
と諭し、「かつて大勢の患者を見捨てて大陸から一人逃げ戻った」自身のしでかした恥ずべき行為への
深い反省と後悔から、「今度は何があっても逃げ出さない」と開業医として再スタートする覚悟に至った
話をするのに、等身大の人間を描こうとする書き手の思いが重なって感じ取れて、尾崎脚本への信頼を
いよいよ強めたことだ。

人が限界にぶち当たるのは当たり前、挫折や失敗が皆無の人生などまず有り得ない、だから
壁にぶつかって挫折や失敗を経験して、それからどうするか、が重要になってくる。
内省できるか否か、つまり責任と覚悟の度合いが、または有無が、その後の生き方を決定づける。

坂田はその彼の人生の分岐点において、心の後ろ暗い闇から脱して、少しでも光の方へ手を伸ばそう、
自分を高める努力をしようと決めた。一歩でも一ミリでも高くへ遠くへ。目指した自身の理想の在り方に
少しでも近づこうとした。
匙を投げなかった。「自分」にまだ残されている可能性を信じて、けしてあきらめなかった。

坂田は自らの罪を直視する勇気が持てた、つまり内省ができた、だから立ち直れた。人として成長できた。
誰かのせいにして、罪から逃げていたなら、未だに自堕落な酒浸りの日々を送っていたかもしれない。

最初から完成された立派な人などいない、彼もその例外に漏れず、過去の罪を反省し後悔できたからこそ、
次のステップへ踏み出せた一人だった。人が生き方の明暗を分ける分岐点を正しく見極める/把握することの
大切を思う。

医者はそこにいるだけでいい、坂田の言う最終的に行き着く医者の理想像はまた、他者に対する人としての
最高の存在感を示した状態(とこれは正枝が補足したんだったが)でもある。

何かをしてくれるから、の条件付けじゃない、そこをすらも超えて、ただそこにいてくれること、
そのものが価値となる、他者の願望となる。
本当に究極というしかないな凄いよなと、人一人の存在の、誰とも比較しようのないスペシャルな重さに
目眩すら覚える。


「大学病院は派閥争いなど、意地やメンツがぶつかり合うところ、ここで生きていくなら
我慢してやり過ごすしかない」と梅子にドライな忠告をする岡部、という仕込みの前段があって、
同じことを松岡が述べれば、今度は激しく突っかかり、「松岡さんには失望した!」とまで
はねつけてしまう梅子がいるわけだ。実に面白い。
梅子の中で、いかに松岡が「特別扱い」なのかが分かる。
あなたはそれを認めるような人じゃないと信じていたのに(ひどい)、という乙女心である。

そして松岡は梅子に惚れた弱み全開で(松岡が先に惚れていたのは確信もって断言できるw)、
密かにドーナツ差し入れたり、ダブルデートの誘いに乗ったり、どれも「梅子のため」が
行動の動機になっている。
そして建造と梅子の父娘の間を取り持とうと気を遣うあたりのいじらしさとか、基本的に誠実な
好青年なのである。
娯楽を単純に楽しんでいる人たちに、わざわざ理屈ゴリ押しして水を差すKYな態度は玉に瑕ながら、
不器用でも根の優しさはこれまでの流れでお墨付き。

だがノブ(信郎)の醸しだす一緒にいると落ち着けそうな和む空気感も、
竹夫の押しの強さ(声もデカいがw)と妹を過剰に守りたがる兄ポジの独善感も、
それぞれの魅力があって、松岡とも甲乙つけがたく、これからの成長が楽しみな男たちなのだし、
気になる女子の存在(咲江と静子か)も、互いにどういう関係に最終的には向かうのか、興味は尽きない。

また建造と梅子の父娘対決のテーマが、いよいよ梅子が巣立ちの時を迎えたのを期に、再び浮上してきて、
こちらも目が離せない。
生まれて初めて父に褒められたことで、言葉にならない感激に打ち震える涙目な梅子の愛おしいこと。
いつぞやの、縁側に胡座をかく父の背中に向かって「お父さーん、ただいまあ」と声をかけた梅子の、
そのお父さーんのいかにも末っ子らしい甘えた声の調子が、何故だかじんと胸に沁みたのを思い出す。

松子と加藤の新婚夫婦が、このまま平穏無事に何事もなく連れ添うことになるかどうかも、地味に気になる。
松子の方は、母との仲が結婚前より親密になっているような気がした痴話喧嘩エピの時に。

梅子が町医者になるという大筋の確定事項とは別個に、現時点での(男女の関係含む)人間関係が、
この先どう転ぶかわからない予想のつかなさが本作にはあるが、それが次へと視聴を引っ張る興味を
形成している、おそらくは大きな要素なんだろうと思う。






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