梅ちゃん先生/ちいさな嘘のおおきな本当(第15週・85〜90)


開業初日の下村医院は、ミカミ食堂でなし崩し的に行った無料診察の時とは打って変わって、客足ゼロの状況。
そこに様子見のつもりで乗り込んできた三上&安岡の両女将に、正枝と芳子も加わり、かくて賑やかしい
井戸端会議の一丁上がり!となる。

お茶と煎餅しっかり用意で、終戦直後の苦労話に花が咲く熟女パワーに備わる妙なリアリティは、
彼女らを「面白がる」観察眼の賜物である。
対象を引いて眺めるからこそ、あの独特の可笑しみは生まれる。

男って、と突如として大上段から総括するヒステリックなキレ方をして
周囲をドン引きさせる咲江に

女って、とまるで脈絡のない意味不明にしてヤブヘビ(だなァ)な攻撃に対し、如何なものかと、
同じ男として松岡に共感を求める調子でぼやく信郎、

このカップルに明るい未来はくるのか、少々気にかかる。

咲江は、本人の資質や個性でなく、収入や将来性でノブを評価しようとする
自身の父親への反発を込めた「男って!」のつもりだったはずが、

信郎は(あの状況ではそう思わないほうがいっそ不自然だろうが)
咲江がキレた原因は自分にあるらしいとうっすら察して、でも具体的に何が気に触ったかまるで心当たりがなく、
それが「女って」厄介ですよねェ、とやれやれといった風の愚痴を引き出してしまった。
しかも幼馴染みの梅子と比較までされて。
その後に続く、懐かしげに梅子語りするほのぼの笑顔は、明らかに咲江にとって形勢不利な流れだし。

まあ要らぬお世話と言われればそれまでだが。そのうちノブが本格的にあの子泣かすことになる
一つの前兆のような気がしないでもない。杞憂でしょうか。

その他「今後が気になる」男女の仲では、もちろんヒロイン梅子と松岡の結婚への進展が(有る無し含めて)
どうなるかで、今週は松岡が建造の思わせぶりな言葉の意味にようやく気づき(弥生と山倉の助言のおかげで)、
そこで糞真面目に梅子との「結婚」の二文字を猛烈に意識し出すも、結局は一人で空回りするに留まるのが可笑しく。

だいたいいつもぶつぶつ独り言の状況把握&判断をしてるんだが、あれは声出し確認なのか松岡よ。
どことなくボウケンチーフを思わせるのが(元々あの枠自体が説明台詞の宝庫だが)二倍楽しめて良い。

また弥生と山倉のコンビもいい具合に徐々に熟成されてきているような。

山倉は弥生に地味ながら「僕ってなかなかお買い得ですよ」と言いたげな自己アピールをしてるんだが、
弥生は、容赦なくドライなツッコミをお見舞いするのみ。

キビシーと言わんばかりにまじまじと弥生を見つめる山倉に、トドメの一撃でとびきりクールに
「なに?」と彼女は怪訝そうに眉根を寄せる。「なんでもないっすよ」。
もぞもぞ口をとがらせて引き下がる山倉。思いがいつか報われる日はくるのか。

尾崎脚本は言葉が思うように届かない、本心とは違うように相手に伝わってしまうもどかしさに着目し、
言葉が伝わる際のズレを意識して書いている。

松岡が電話で告げた「僕は君のそばにいる必要はあるかな」は、「結婚」が急にちらつきだした
彼としては、まず梅子の力になりたい気持ちはあって、ただそれを梅子が望んでいるかどうかを
確かめているつもり(独り善がりの押しつけは良くない等考えた上での)なんだろうが、
梅子としては、あまり積極的に自分とは関わりたくないかのような、一歩引いたよそよそしく
冷たい意味合いに響いてしまい、それで顔を曇らせしばし沈黙の後で、大丈夫一人で頑張ってみる、と
答えざるを得なかった。たぶん梅子は幾分の味気なさと寂しさを感じていたんじゃなかろうかあの時。

対面でのやり取りだった狭山が建造の気持ちを推し量れたのを考え合わせると、声の調子だけで
判断するほかない電話は、確かに万能のコミュニケーションツールとは言えない。
意図が相手に伝わる、コミュニケーションが成立する、といっても(むろん電話に限らず)
恐ろしい錯覚の可能性は常にある。

最初はミカミの千恵子が、そして彼女から飛び火して工員の木下が、
仮病を使って直視したくない事態から、後先考えず逃げようとした。
仮病を偽るのに協力してくれるよう懇願された梅子は、千恵子には、自分も不得手な授業で
似たような恥ずかしい思いをしてきた過去を持つ者としての同情から、
木下の場合は、なし崩し的に彼の強引さに押し切られて(煮え切らぬことをもごもご言っているうちに
いつの間にか)承諾したカタチになったんだったが、

味を占めた二人から示された再びの依存的態度には
(千恵子はまた苦手な裁縫の授業をサボるため、仮病に協力してくれと頼み、木下は、よりによって梅子が
5人もの救急患者をかかえて大忙しの時に、安岡製作所へ戻れるよう仲立ちを頼んだ)
それぞれにキッパリした口調で、千恵子には「逃げたって解決しないよ、何事も一生懸命やらなくちゃ、
本当にやりたいことは見えてこないんじゃないかな」といい、木下には「自分のことは自分でやる!」の
一言で活を入れるという、先週の涼子ちゃんの時から、さらにステップアップして逞しくなってきている
梅ちゃん先生、であった。
(ミカミと安岡の両女将はどうやらこの呼び方を世間に定着させたいらしい、おそらくまだまだ未熟者の
自覚が強かろう梅子も、半分諦めた曖昧な笑顔で認めてるしw)

本日の竹夫による梅子へのツッコミも快調。少ない出番のうちにも脇キャラの存在感をきちんと出せるのは、
役者の好演にも増して脚本の手柄でもある。
陽造叔父をきのやん(木下)と絡ませて登場シーンを作ったのも、まんべんなく気を配る「視聴者サービス」の
側面もあるかと思う。あの人もこの人もちょっとでいいから出してくれ、な際限ないミーハーな要望を見越しての。

細かい(本筋のストーリーにさほど影響しない)部分に面白さを見いだせる作りが気に入ってる、とは
以前にも書いた気がするが、実はそれは映画的な楽しみ方でもある。
映画にはストーリー以上にシーンの面白さに醍醐味がある、のは
一度でも深く映画に嵌った経験があれば周知のことだから。
古今の名監督たちが必ずといっていいほど「神は細部に宿る」作品を残しているのも、
つい最近観た映画『愛と誠』の三池崇史監督、あのエンタメ系邦画の大御所であれ、類することを
公式サイトで発言しているのも、
世を席巻するストーリー至上主義に「ソレだけにあらず」と異を唱えたい者には心強いことではある。

週のゲストキャラたる、渡り職人(つったっけか)井上ダンカンの退場のさせ方も、意外性の一捻りがあって良かった。
加えて温かいのがいい。安岡の女将が井上からのまさかの愛の告白を聞いて、急に自意識過剰になる女心の
可愛らしさなど、ユーモアでくるんだ人肌のどこか懐かしい温かみを感じる。
番組全体から沁み出してくる下町人情の温かみが心地いいのだ。

ニブチンな松岡から建造の言葉(「梅子はまだ頼りない。君くらい頼りになる男がずっとそばにいてくれたら
安心なんだが」)を伝え聞いた弥生が「それは結婚のことを言ってるんじゃないの?」と単刀直入に述べ、
そこで初めて、ななななんだって、とばかりに驚愕した松岡が「えっどこらへんが?」と聞くのに、
あっけらかんと即答で「全体が♪」と返す山倉の陽気な口調、が今週のツボ。







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