『カーネーション』の楽しみ







10月3日朝7時半〜のBSプレミアム初回放映時からだから、初めて朝ドラを初っ端から、しかも丹念に(結構)入れ込んで観ていることになる。
予想外にハマった理由はひとえに否も応もなくぐいぐい気持ちと視線を惹きつける映像の力、当然にしてカメラや美術、また脚本、配役、演技陣といった総合力を含むであるが、に魅了されたからに尽きる。

目下のところ演出の田中健二とは一体何者なのかに強い関心があったり。まだ脚本の渡辺あやならジョゼ虎やヒミコ、天然コケッコーの三本の映画を観ていた分、テーマのこだわりや持ち味の手がかりが皆無ではないのだが、演出の手腕を過去作と比較する術が残念ながらことごとく田中演出作品未見の私にはなく、それでもこの人の演出の巧さは先週の第一週分だけ見ても知れようというもので、本日月曜の第二週最初の回、主演の尾野真千子が本格登場していよいよ洋裁への情熱真っ只中、ミシンと運命的出会いを果たすまでをテンポよく過不足なく、きっちり15分に収めた渡辺脚本の巧さもさりながら、
集金のため偶然に通りがかったパッチ屋の窓からそっと覗き見たミシンに、突如として光があたるやぱっと周辺が明るくなるという、尾野演じる糸子の主観を大事にした演出に、心を根こそぎ引っ掴まれ持っていかれた彼女の夢見心地、高揚感が巧みに表現され、さらにその後の、だんじりの大工方への憧れに匹敵する人生を賭けて追い求めたい目標を見つけた歓喜に打ち震える、言葉にし難い生涯においての(何度もあるものじゃない)最高のひとときを、だんじり祭りの熱気を帯びた勇猛果敢な足取りや掛け声の胸高鳴る具体的ショットに重ねて、ナレーションや台詞に頼らず「映像で表現した」力量には、大いに舌を巻いた。

そのシーンが何かを連想させる気がしきりにして、はたと思いついたのが高畑勲演出のアニメ『赤毛のアン』で、アン・シャーリーが迎えにきたマシュウの馬車に乗りグリーンゲイブルズに向かう途上で、満開に咲き誇る林檎の花のアーチが目にも彩な道を通りかかる、その時の天にも昇る夢見心地を彼女の主観に徹して描き切った高畑演出の表現力と、今回の田中演出とはけして遠い距離にあるとは思えない。豊かな感性、繊細な感受性において、後者は前者に引けを取るものではないとつくづくと感じ入った田中演出によるシーンであった。
こうなると先週第一週分のまとめも、おいおいやらねばという気にもなってくる。
しっかり録画で残してあるので、できたらそのうちに。

余談だが他にもジブリ的な要素は直感しなくもなかったのであって、オープニングのクレイアニメーションに『アリエッティ』を、初回の二人の糸子役によるミュージカル調の歌のハミング部分に『ナウシカ』を、なにげに連想したりした。

ところで10月スタートの連続TVドラマ、特撮やアニメも入れると結構色々と視聴していたり、あるいは今後視聴予定だったりするのだが、当然ながら全部はとても追えないので初回一発が勝負と割り切ることにしている。
そうやって数を減らす努力をしてもなお、数がひしめくのは何故だろう。
今期はどこも普段以上にヤル気を漲らせているとかの競合する雰囲気が何かあるのやもしれん、何となくで言ってしまうが。こちらも感想は後日あらためる。

二三年前からだったか、それまでの映像イコール映画への関心が、TVへと比重を移し始めたのは。
不思議なのは、いまだにTVといえば民放地上波でのバラエティが代名詞らしきことで、数年、いやもっと以前からだろう、民放なら深夜の時間帯や、またNHKを筆頭にBS、CSなどでも優れたプログラムは探せばあったはずを、相変わらず「TVは低俗」、「もう終わってる」などと(全てを観たわけでも現状を正確に把握してるわけでもなく、ただおのれの狭量な偏見だけで)切り捨て、さらには返す刀で「映画は映画館」で観る以外は邪道だとして、さも神をも畏れぬ「冒涜行為」か何かのように大袈裟に非難し大上段から見下す、寄らば大樹の権威主義的脳ミソのやたらな大声が我慢ならなかったのだが、
映画には映画のTVにはTVの良さがあるのは当然のこととして、昨今のTV映像はデジタル技術の進歩で下手をすると、映画館の映画の映像よりよほど美麗な高クオリティなど今や珍しくもないわけで(実体験した本当の話です)、そういった事実を事実と認めもせず、未だに低俗だのオワコンだの見下すのを止めないのは無知以外の何ものでもない。あるいは柔軟性を欠いた硬直した脳ミソ特有の頑迷さ(←年齢問わず)とでも。

それでも映画という方法論だけを過剰に絶対視する向きには、かつてのキェシロフスキやベルイマン、そして最近でもリドスコやスコセッシなど名のある映画監督がTVドラマに挑戦してきた(している)事実をどう見るのか、聞いてみたい気がする。
技術革新の進んだ今ならまだしも、70年代80年代の頃にものは試し?と挑戦する姿勢を有名監督が示したことをどう評価するつもりなのか(血迷ったとか否定するんだろうかそこは徹底して)。

ということで、他人は知らず、TVはだいたい一昨年くらいからか(NHK中心ではあるが)引き続き面白いと思い興味を持続したままであり、ドラマに限らずドキュメンタリーも特集番組も、科学や歴史や地理や生物や、また音楽や絵画などの伝統文化からアニメ等のオタク文化までを扱った週一プログラムも良質なのが目白押しで観切れなくて困る、という贅沢な悩みを始終抱えていたりする。ビバ!NHK(とこっそり応援)

おまけで。本日の気になるプログラムはNHKBSだけでも熱中スタジアムウルトラ怪獣の前編)、メルボルンの巨大カニ、激走モンブラン、極上美の響宴、があり、これに他のモロモロを加えたらとても観切れないという結論に。
うれしい悲鳴というべきだろうが、切り捨て選定が辛いのと難しいので、つい欲張ってしまい、ドツボにはまる(やたらBDが増えて消化作業に精を出すハメになる)こともしばしば。泣いて馬謖を「切る」!