父も娘も「吾亦紅」な生き方を貫く似たもの同士/カーネーション(42)






◇昨日から引き続き、小刻みにぐらつく不安定なカメラワークが減ったのに比例して、フィックスが小気味よく決まり(謡を教えるシーンでの、向い合う二人を真横から捉えたショットとか)、おかげで格段に画面に集中しやすくなった印象を持った。
やはり止めと動きのメリハリは、このくらいの比重までがセーフなのではないか。
今後も視聴を意識させない自然なカメラワーク狙いでひとつ宜しく。

◇帰宅した糸子が店の前に立った時、ふと格子の張り紙が撤去されてるのに気づく(張り紙自体は映らずとも、糸子の目線の先と角度で見当がつく)のを契機に、店の看板までが外された異様な様変わりに呆然とし、慌てて店内へ飛び込むと、目の前に広がるのは今まで遭遇したことのない人気のない薄暗がり、という場面の背後にかすかに聴こえるのが、ビュービューと吹きすさぶ寒々しい風のSEで、なんともいえず胸騒ぎを覚える不穏な静寂を強調しているのだが、
糸子が閉めきった障子を勢いよく開けて奥へ進むと、フレームの端に台所にいる祖母ハルが映ると同時に、一旦パタリと風の音は止まり、それで糸子のとりあえずほっと安心した気持ちが伝わってくるのまで含めて、ありがちな言葉での直接説明ではなく、表立っては目立たないSEをフル活用し、ここまで饒舌に語れる演出というのは、既存のTVドラマの暗黙の了解的な認識を覆す貴重な試みだと、あらためて感心しきり。
そして俳優陣の熱演や秀逸な脚本にも匹敵する、心をひっつかみ揺さぶるほどの力があるこのような演出に、出来ればひとりでも多くの視聴者が注目することで、少しでもその労が報われればいいなあと思う。

◇店の正面に立って、小原呉服店の看板をいつまでも感慨深げに見上げている善作を、画面奥に捉えたショットは、ミシンを画面手前に捉えることで、代替わりの現実が容赦なく迫ってくる切なさを醸すのだし、その夫の姿を店の奥から見つめる千代が(彼女が片手をかけていたのは、昨日の糸子が背中を預けていた障子だったような)感極まって口元に手をやり、止めどなく涙をこぼすシーンに必然的に連想されるのは、
最初の頃、ハルが独り言のようにして善作の商売下手への愚痴をこぼすのを、隣で黙って聞きながら、ひっそりと夫への愛情を噛み締めて、満たされた微笑を浮かべる千代の表情であり、そのたったワンショットで、千代が善作に本気で惚れていると察しがつく演出の妙に、密かに注目していたのを、そういえばと思い出した。
(昨日の記事での誤解を招きかねないフレーズは訂正済み。千代の善作に対する態度はいつの時も変わらない)

◇しかし立つ鳥跡を濁さずじゃないが、商店街や町の懇意の人たちに、きちっと娘のための縁繋ぎをした上で、自身の幕を下ろす善作の、微塵も甘さの付け入る隙のない徹底した覚悟の示し方には、なぜか我が父でもないのに不思議と誇らしく嬉しい反面、いったい何処に行ってしまったのか、糸子同様に大いに戸惑いを覚えもした。
とはいえ善作が考える「身を引く」というのには、同居の可能性は端からゼロだったか。分かる気もする。未婚の娘に食わせて貰うわけにはいかない父としての最低限の矜持。住まいを別にする、は外せない選択肢だったのだ。
腐っても鯛ならぬ善作ならではの、家長としての筋の通し方なのだろう。

◇以前に酔って幾分呂律の怪しい口調で、善作が糸子に説教した際の「親のスネかじり過ぎたら、そのうち足がなくなってしまうやろ」とかなんとかいう言いようが、唐突に思い出され、あらためて可笑しいやら泣けてくるやら。

◇糸子を演じる尾野真千子の「直接」の言い方が、母音まで落とさずハッキリ発音する関西の言い回しをきちんと再現しているのに、耳にするたび、その手を抜かない徹底ぶりに感心する。

◇奈津の頼りにならない旦那の登場に、彼女のメンクイ度を再確認する思い。一方で選択の基準のブレなさは微笑ましくもあり。(横顔がどことなし、西島秀俊に似てなくもないような)

◇本日のBSまとめ放映分をたまたま途中から観てたら、神戸の祖父はうたた寝して眼を閉じているのだと思い直し、ちょっと安心。
まだまだ当分は元気でいて欲しいので(とうに亡くなった我が祖父の思い出を彷彿とさせるのも手伝って)。

◇二階に上がるのすら億劫なほど酒が入ったせいか、階下の畳に直に寝てしまい朝を迎えた善作の目の前を、最初に糸子が、しばらく経って妹たちと千代が、小走りにパタパタと通り過ぎる、というシーンでの、ぼんやりまどろむ善作の表情と、女たちの足元だけを捉えた構図が、本日一番の映像面でのツボかもしれない。
どこの家庭にもある、朝の気ぜわしい一コマが見事に切り取られているのと、であればこそ余計に、そんな光景から一人浮いて見える善作の、秘めたる決意とどことなしの哀愁が、画面から漂うのがいい。

◇もう一つのツボは(言わずもがなの)、木岡のおっちゃんが奥さんの厚意を、木之元のおっちゃんに短くスパッと説明した台詞、「鬼も頼めば人食わず」。食わずって。笑