車窓に映った勘助の淋しげな横顔が忘れられない/カーネーション(72)







先週の予告にちらと映った
不吉なワンショットに感じた胸騒ぎが
的中してしまった。

病み上がりの身体に国民服を着た、なんだか、いやに影の薄い勘ちゃんが
うっすら微笑んで、ゆらり、と立っていて。

ようやく姿を見せたと安堵する間もなく、いってしまった。
苦しみをひとり抱え込んだまま。



戦争に行って、嫌々ながらに行かされて、
そこでいったい、何を見たのか 何があったのか、
ついに誰にも語ることなく

ただ黙って涙を流し
胸のうちに押し込めて、

引き裂かれる痛みに
悲鳴を上げもんどり打ち

さんざん苦しむだけ苦しんで。



なのに

会いたくても(糸子に)会う資格がない、だの、
(妹の光子に向かい)
これからも糸子を助けてやってくれ、だの

自分のことより相手のことを
大好きな幼馴染みのことを
自然に気にかける言葉が出てくる、

最後まで、そういう男だった。



あの幼き日の思い出、

女が男の力と張り合ってどうする!と善作に張り飛ばされた糸子より、
傍にいた勘助のほうが
「すんませんすんません」を繰り返し、泣きべそをかいていた
懐かしいエピソードの断片が脳裏をよぎると、

また目の奥がじんとして
喉になにか固い塊のようなものが、迫り上がってくるようだ。



最後まで誰にもなんにも語らなかったのは、

自分が強制的に背負わされて
苦しい苦しいと喘いでいる、戦争体験という途方もなく重い荷物を、
肩代わりさせたくなかったから、
そして肩代わりなんて出来ないことが、
わかりすぎるほどわかっていたから、そんな気がする。



今どき、相手の荷物を持つ余裕なんか誰にもないんだと、
自分の荷物は自分で何とかしないといけないんだと、

本日の糸子はきっぱりと言い捨てたんだったが

その言葉が、考えが、招いた取り返しのつかない代償として
勘助の出征を知るタイミングの致命的遅れとなって
跳ね返ってきてしまった。


息子の太郎が、現状の安岡家の状態では孤軍奮闘するしかない母・八重子を気遣い、
店先まで迎えに立ち寄ったり、
母の荷物を奪い取るようにして持ちたがったり、

少しでも母にかかる負担を肩代わりしたがる様子が、切ない。

太郎の優しさ。勘助の優しさ。

優しき男子の示す気遣いは、

ひっそりと誰にも知られず咲く野の花みたく
控えめで、じんわり温かくて、

そっと大好きな人を
見守るように、包み込むように

まるで誰に気づかれぬとも意に介さず、むしろ気づかれないのを願うように
ただただ黙しているから

どこにいるやら存在を消したようで、
でもふと気づくと直ぐ隣にいて、愛する者を見守っている

それはそれは、とても嬉しそうに。
そしてどこか、哀しげに。


勘ちゃん、勘ちゃん、勘ちゃん。


どうにもならない、
言葉になんかならない、
渦巻くばかりの
わけのわからん感情を持て余し

あまりにあっけない君との別れを
いまだ信じられずに、じたばたするばかり。





「これでぎりぎり一杯。後から書けるようならその時に。」