SONGSで夜明けのスキャット

歌手・由紀さおりの、去年12月に行われたニューヨークはタウン・ホールでの公演より。

番組を視聴する以前に、PinkMartiniと組んだ『1969』のアルバムも聴き、昨年秋のロイヤル・アルバート・ホールでの成功も耳にしていたのだが、あらためてライブ映像の臨場感を伴うと、日本の昭和の歌謡曲が、本当に海外で受け入れられている現状を目の当たりにする思いがした。

ただどうしても『ブルー・ライト・ヨコハマ』だけは、親所有のレコードにて出会った、おそらく最初の歌謡曲の記憶として、今も鮮明に記憶に刻まれている「いしだあゆみ」verでないと、何かしっくりこない感覚が根強くある。
『夜明けのスキャット』が由紀さおり以外の歌声ではぴんとこないのと同様に。

前者はいしだあゆみの「ヨ・コ・ハ・マ」と一々スタッカートで区切るような歌い方の印象が強烈だった。
歌詞に思い入れを過剰に乗せない、あっさり突き放したややハスキーな歌声が、いしだあゆみのクールビューティな面立ちとあいまって、楽曲と歌声が離れがたく合致してしまっている。
幼少期の体験というのは、その後の趣味嗜好の方向性を決定的にする契機を多分に含んでいるものなのだろう。

夜明けのスキャットを聴くと宇宙戦艦ヤマトの川島和子のスキャットを連想する、というパターンはそう珍しくもないようだ。
やはりそうか。ちなみにヤマトのスキャットは、夕刻のウィークディの再放映で親しんだ忘れがたい歌声である。

当時はさほど思い入れなどなかったはずの昭和歌謡が、何故かたまに耳にすると、知らぬうち一緒に口ずさんだりしている。
その影響力の計り知れなさたるや。
当時の音楽業界のプロたちが真剣勝負で仕掛けたであろう、楽曲に散りばめられた知恵や技術のノウハウが今でも通用することの、つまり流行りを超越してしまうことの偉大に、しんと向き合うような気持ちになる。



由紀さおり/夜明けのスキャット-Scat In The Dark- (作詞:山上路夫/作曲:いずみたく/編曲:渋谷毅



いしだあゆみ/ブルー・ライト・ヨコハマ(作詞:橋本淳/作曲&編曲:筒美京平