吉松隆の『平清盛』OST


今年の大河ドラマは何よりもまず音楽が断然気に入ってしまい、発売直後のOSTを早速購入し、楽しんでいる。
CDの良さはブックレットが付く点にあると前々から思っていて、数ページとはいえ番組チーフPと作曲家による音楽関連情報に触れた文章が読めるのがいい。
磯智明チーフPは番組スタッフ(柴田チーフ演出)に一聴を奨められて吉松隆の音楽に出会い、最近では珍しいクラシック畑からの起用に踏み切ったそうだが、その英断に拍手を惜しまない。
大河ドラマの音楽に強く惹かれるなど絶えて久しかったから。

そうはいいながら、大河ドラマ自体に嵌って毎回夢中で観た、などという記憶は残念ながらない。
親が観ている側で家族団欒のついでになんとなく、なパターンが主だった。
そんなわけでストーリーやエピソードの類はとうに忘れてしまっているが、テーマ音楽だけはさすがに耳に残っている事が多い。
加えてリアルタイムで観たはずのない遠い過去の大河のテーマに、結構好みの楽曲が集中している(ような気がする)。

1963年の第一回からリアルタイムでほぼ見てきたという意外に大河ドラマ通の吉松隆も、初期の頃の音楽を担ったクラシック系作曲家とその楽曲群に、とりわけリスペクトの気持ちが強いようだ。
赤穂浪士』の芥川也寸志、『源義経』の武満徹、『国盗り物語』の林光(先月5日の逝去を遅ればせで知る。もしインタビュー番組などがアーカイブに残っているのなら、ここは気前よく放出してくれないものかなNHKよ)、『春の坂道』の三善晃、『風と雲と虹と』の山本直純、の名前が挙がるなか、一番のお気に入りが『天と地と』の冨田勲、というのに納得。
確かに雅やかさと力強さの融合は、平清盛テーマにも通じる作品世界の奥行きを感じさせる。

一昨年だかに大河テーマ楽曲の聴き比べをしてみて、個人的には『国盗り』が一番好きだったのもあり、上述のリスト入りには共感も。
冨田勲は別格扱いというくらい、どのテーマ曲にも聴き惚れた。
三善晃の名にもテンション上がる(『春坂』の渋さと先鋭、『アン』の夢と微睡み)。

平清盛OSTは、作曲者本人による大まかな傾向やイメージに類別分析的観点からの楽曲解説や、テーマ曲録音時の裏話なども掲載され、しかも自身のHP上での詳細解説ともまた違うという凝りっぷりで、ネット配信とは一味違う魅力をCDという形態に添えていると思う。

これはたとえば、公式サイトをチェックしつつも、映画館や劇場で作品パンフレットを購入することや、電子書籍が人気のご時世にも、紙の本に一定の需要があることと、似たような現象かもしれない。

CDがこの先もしぶとく生き残るために、まずはブックレットなどの付加価値を充実させるのが最善ではと思うのだが、どうも他の入手経路との差別化によせる関心が、売り手側に薄いらしいのが謎。
OSTも、もう数ページ厚くても良かったような。とはいえ概ね満足。今後も折に触れては愛聴したい一枚になりそう。


大河ドラマ「平清盛」音楽制作メモ(月刊クラシック音楽探偵事務所)



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