自信/カーネーション


思うに自己表現(ゲージツ方向)と顧客満足(エンタメ方向)のせめぎ合いは、商品としてのものづくりに携わる者が半ば必然として背負う葛藤なのかもしれない。
作り手の好み、と、お客の好み、をどう上手く擦り合わせるか、最適バランスの見極めに容易く正解は出ない。

服作りは自らの突出した個性を表現する有効な手段と考える直子と、服作りの主役はあくまでお客と考える糸子の、各々の育った時代背景からくる世代間格差が浮き彫りとなった今週。
東京と大阪に場所を分けての二元中継的な双方の比較描写を、東京のアパートで妹・直子と同居する優子から母(糸子)に宛てた手紙、という飛び道具ナレを介して、面白く観た。
さしずめ優等生の優子は両者の中間に位置する(それは方向性の定まらぬ中途半端とも、柔軟性に長けた器用とも見えよう)悩ましき立場だろうか。家族間の仲介役に長子は向いているかも。彼女の性格も。

時代のニーズを読み切れず北村の企画を失敗させた糸子が「イチから出直し」と猛省するのも、主役はあくまでお客、との思想が骨の髄まで徹底して浸透しているからだ。
洋裁に開眼した最初からこの姿勢は一貫して変わらない、大好きな洋裁で誰かに喜びを「与える」ことが自分の喜びとなる人なのだ。
だが決して客の言いなりでなく、自分がこれはと一押しするデザインや素材に並ならぬこだわりも持つ。

前述した自己表現と顧客満足のせめぎ合いの落としどころは糸子のみならず、直子にもまた優子にも、いずれは対峙を免れない究極の課題となるのだろう。
商売(儲け)と技術(完成度)の一方だけが突出するのは、最終的にお客と自分のどちらの満足とも、大きくかけ離れるだろうから。

今週の安達もじり演出。お気に入りは、糸子が夜更けに一人台所で悶々とデザインについて逡巡するシーンで、深い青を背景に横顔の尾野真千子を瑞々しく、また鮮烈に捉えたショットには息を呑んだし、スクラップブックの次のページ(トラペーズラインを紹介する雑誌の切り抜きが貼ってある)がなかなかめくれず、ためらう指先と、斜め後ろから捉えた首筋のラインの仄かな艶めかしさとが相まって、映像がたゆたう時間を自在に支配する錯覚に魅了された。
安達演出の、さりげない地味な場面を丁寧に描くスタイル(『愛する力』の週での周防と糸子と二人の娘との、何でもない朝の光景の描写が未だに印象に残る)には以前から好感だった。

生卵を目の高さに近づけて凝視し続け、ふつふつと創作意欲の湧くがままに荒々しい筆致でデッサンを次々書き殴る直子のシーンに、勇壮に駆け抜けるだんじりのイメージが重なるのが、糸子とミシンとの衝撃的出会いのシーンが思い出されて、ジンときた。
自分の道を見つけて高鳴る胸の鼓動が、だんじり太鼓の腹の底に響く音と呼応し、そのもたらす興奮に熱を帯びた身体が勢いづいて前へ出る、前へ出たらそこからもう力の限り突っ走る。
持ち前の気性の激しさが直子本人を良くも悪くも揺さぶる。
制御できない若気の至りに突き動かされるまま暴走中の直子に、来週の展開が気になってくる。

劇中での糸子と北村との丁々発止な掛け合いは、実は演技以外の素の時にも続いている事実があさイチで判明、そこから察するに、オノマチは演じる役が実生活まで侵食する(役柄に100パーの全力でのめり込む)タイプの俳優かとも思う。
あさイチでの様子からは、北村役のほっしゃん。に10歳下だというオノマチが安心して甘えている関係が垣間見える気がした。
「じゃがいも!」の罵倒返しがアドリブだとは何となく察してはいたが、にしても間合いと突っ込みの絶妙センスは何度見てもウケる。ほっしゃん。の万全なるお笑いサポートも素晴らしい。

あさイチで紹介された撮影風景に二度も勘助(!)の姿を発見して嬉しいの懐かしいの。
しょっぱなの撮影でトチってしまいヤバイと頭を抱える様子のオノマチに、両のげんこを胸のあたりで握りしめるようにして必死に励ましてる、やや斜めから捉えた後ろ姿に思わず微笑んだ。やっぱり勘ちゃんだよ。
別の撮影風景では、小原家の茶の間に(そして善作の隣に)ちゃっかり座ってるのもツボすぎ。

そういえば(連想で思い出した)直子のご学友三羽ガラスが岸和田の実家を訪ねてきた際の、糸子が心の声で一人一人顔と名前を確認する最後に、この優しそうなのが小沢くんか、と言った時の「優しそう」の言いように。妙に気持ちが入っていたのを聞き逃さなかった私は、糸子の男の好みはそこかと密かにニヤニヤしたのであった。
なるほど、初恋の人周防もまためっぽう優しい男だったっけ、などと。
で、再登場はあるのかいな(希望込みで「ある」に一票)。

しかし神戸は清三郎だけでなく、貞子ももういないのか。
並べて敷いた布団で、千代が直子に神戸箱の思い出話をしながら涙を流すシーンには一緒にウル目。
直子の「長生きしてや」は視聴者の本音でもあろう。
せめて千代さんはラストまで居なくならないで、そこにいてほしい、糸子たちの傍で、変わらぬマイペースで、穏やかにふんわり微笑んでいてほしい、と願う。





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