わたしの存在がこの世界から無知の闇を消し去りますように

『紛争地帯に生きる〜カシミール地方 〜少年の日々〜』 Angels of Troubled Paradise

かつてムガール帝国皇帝が「地上の楽園」と讃えたカシミール地方では、
1940年以降、その領有権をめぐりインドとパキスタンの争いが続いている。

インド側支配地域ではこの20年、分離独立を求める人々の活動が激化、
それを鎮圧しようとするインド軍や警察との衝突が続いている。


11歳の少年アディル。催涙弾の薬莢拾いで家族の生活を支えている。

すすけた顔で。よごれた指で。

読書好きな子だったのに、「働いてお父さんを助けたいから」と勉強(学校)を止めてしまった。
沈痛な面持ちで語られる母の証言。

2年後の13歳には、薬莢拾いの他にトラック清掃の仕事も始めた。

警察による市民への容赦なき暴行(8歳の少年が殺されるのを間近で目撃した)は恐ろしいが、
薬莢集めは止められない。
止めたら飢えて死ぬしかないから、とアディル。

せめて妹に勉強机を買ってやりたかった兄としての思い。
でも生活に追われて仕方なく手作りで(集めた廃材で)。
内緒でささやかな完成品を部屋の隅に置く。
妹が気に入ることを願って。

アディルの友人が、世間話の延長のようなあっけらかんとした調子で教える。
「(催涙弾には)羽つきもあるって知っている? 皮膚に食い込む弾だよ。羽もね、売れるんだ。」 
とたんに眉根を苦しげに寄せるアディル。

その友人に、「将来の夢は?」と番組ディレクターが尋ねると
即答で「夢なんかないよ。とにかく一日殺されずにすめば、それで十分なんだ。」


殉教者墓地の風景。
この3ヶ月で110人が亡くなったとアディルの語りが入る。

ほとんどは罪なき人々。小さな子供、幼児とか乳飲み子とか。

なんのために、どんな罪で、武器も持たない一般人を。
墓守り(墓地の管理人)が訴える。
この小さな子らが、いったいどんな悪事を働いたというのですか。

おびただしい数の墓。
しかも一つの墓には(スペースの関係で)複数の遺体が埋葬されている。


最後に流れる、少女達による祈りの歌声。


私の願いは
この唇で
祈りの言葉となる

私の人生が
ロウソクのようでありますように

わたしの存在が
この世界から
無知の闇を消し去りますように

知恵の光を
すべての場所に届けますように

祖国がどうか
平和で
美しい国でありますように





※国際共同制作
NHK Media Corp(シンガポール)2011



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