嘘と本当の「あわい」を見つめる渡辺あや脚本/カーネーション(あなたを守りたい)


つらつら思いつくままに今週のまとめ感想。

糸子と組合長の、ディオール偽タグ事件を起こした北村を非難する観点のズレっぷりに、彼への愛着&愛情が窺えるが、糸子がその犯した罪自体を肯定したわけでないのは、組合での北村による既製服講義を「あほらし!」と一蹴したり、優子の祝言出席にいたる泣きの一幕を「茶番茶番」と鼻で笑う態度からも知れる。

他者に対する悪意や手前勝手な正義の強制からでない、本人の無知と致命的なモラルの欠如(当時の規制の緩さも無関係ではなかろうが)が引き起こした悪事だから、つまらぬことをと散々に非難はすれど、見捨てるまではとても出来ない糸子たちの気持ちは、人情として理解できる。

とはいえプレタの夢を語る直子に「タグつけただけでオモロイように売れるしな!」と盛り上がる「懲りない」北村を、すかさず「恥を知れ恥を!」(だったか台詞ウロ)などと怒鳴って突っ込み入れる糸子姐さんの頼もしさが頼りか。これからも変な方向へ行かぬよう監視役よろしく。


警察が糸子の店を訪れた際の、恵さん&昌ちゃんのあの狼狽ぶり、募る不安をそのまま糸子にぶつけ、大丈夫なんですかと詰め寄る態度に、やはりというべきか、周防事件の後遺症がついに浮き彫りになったと感じた。

二人はあれ以来、心のどこかに糸子に全幅の信頼を置けない微妙なわだかまりが、今も消せずにあるのだろう。
でもそれがリアルに通じる人間関係では、とも思い、だからこそ、絆を意識してよりチームとして結束できるのでは、とも思う。

渡辺あや脚本の確かな人間洞察に基づく描写には、時におどろくほどの鋭さを露見させる瞬間がある。
その人間を見つめる眼差しのブレない透徹した奥深さに惹かれる。


そういえばと振り返ってみるに、

北村と店の前の往来で大袈裟に抱き合う「茶番劇」の片割れに、優子以上の適任者はいなかっただろうし、

今頃になって「商売に向いてない」自分に気づく、町内一の愛されキャラたる木之元のおっちゃんを夫に選ぶような節子さんだからこそ、
戦時中に食料に関する誤解と悪意の噂を立てられ、糸子が四面楚歌に立たされた時には真っ先に、「一緒に配給所いこ。」と誘う気遣いを示せたわけで、

さらには今週、糸子が直子を含めた世界に通じる服飾デザイナーを目指す若者たちに、デザインの良し悪しは理解できないが、その本気は認めるし応援もすると、これまでとの心境の変化を率直に伝えたのも、
以前のエピソード、戦後直ぐのまだ焼け野原だった東京で出会った、生きるため盗みを働く戦災孤児に寄せる想いとも重なる構成になっている点にも気づくと、

本作が紡ぐ糸子という主人公をめぐる人生の糸は、見事に強く逞しい一本の線となって、過去と未来を「現在」を介して繋げているのがありありと実感され、妥協を許さぬ熱意と信念で練り上げられた脚本のおそるべき完成度に、あらためて感嘆するのだった。


今週の演出(松川博敬)にも、その「過去と未来が現在を介して繋がる」感覚は、抜かりなく反映されている。

青空に親子とんび、のショットには、善作と糸子を想起させたい意図が当然あるわけで、新旧の受け継がれていく交代劇のイメージを強調するのに一役買っているし、

店の前の道を、千代に見送られて去っていく(東京へ旅立つ)優子と聡子の場面をあえて似たような構図にしたのも、かつての静子が、二階の欄干にもたれるハルに見送られて去っていく(他家へ嫁いでいく)場面に重ねることで、娘たちが親元から立派に独り立ちしゆく「巣離れ」の印象がより強まったように思う。GJ。


渡辺脚本の人物描写のリアリティは、言うまでもなく糸子の娘たち、優子、直子、聡子の三姉妹の描き分けに顕著に顕れていて、どの個性も埋没させることなく、実に見事に血の通った活きた人間として描き出す手腕のおかげで引き立つ、三人三様のいじらしさに今週はウル目連発!となった。

優子が直子からの電話で装麗賞受賞を讃えたのは、けして嘘ではなく、あれもまた優子の姉としての本心であるのも、だがそれが妹には口先だけの誤魔化しであるかのように受け取られてしまうのも、歳が近いことで「直近のライバルで在り続けた」姉妹ならではのリアリティだろうし、
逆に三女の聡子が密かに感じていた「仲間外れ」意識は、長女との開いた年齢差がまったくの無関係ではない気がする。

類まれなきテニスの才能を封印してまで、家族の一員たる実感が欲しかった聡子の心情にもらい泣き。
あの家は従業員と一緒に食事もするし自宅兼用だしで、洋裁の仕事が普段の生活から切り離されず同化してるせいもあり、聡子の「自分一人浮いてる感」は相当キツかっただろうと想像。
よくぞグレずに育ったものと。
お父ちゃん(勝さん)の「いつも上機嫌」な気質を受け継いだのは幸いだったと思えてくる。


最近よくサントラ未収録の楽曲が流れるのが気になっている。
サントラ第二弾の予定はないのだろうか。出して欲しい願わくば。




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