真実に向き合うことで救われるココロ/怪物はささやく

パトリック・ネス(著)
シヴォーン・ダウド(原案)
池田真紀子(訳)
ジム・ケイ(絵)


テーマはシンプル、だがその深みは大人にも訴えるYA小説。

どんなに辛かろうと酷かろうと、ありのままの真実から目を逸らさず
自分の偽らざる本心を見据える勇気を、13歳の少年が獲得するまでの、
紆余曲折する過程を追った物語。

無意識にであれ、見たくないものに蓋をしたがったり、自身に都合のいい嘘を
信じたい誘惑に負けそうになるのが、弱き人間という厄介な生き物の常なのだろう。

主人公の少年コナーも何度も見たくないがゆえの回り道をする。
「ストレスから逃れるための」身代わりの悪玉探しや
「苦しいがゆえの思考停止が招く」暴力の発動、などの手段に迷い込む。

善悪の二極にきれいさっぱり(?)分断できない人間というもののややこしさを、
夢か現実か存在が判然としないイチイの木の怪物の教える物語から知らされ、
そのたび独自の善悪判断がくつがえり、大いに混乱するコナー。

13歳の単純な正義感では割り切れない、だから理不尽としか思えない物語の結末、だが
この少年と同じく(ある程度の人生経験を経てもなお)不服に感じる未熟な大人が
いるだろうことも想像に難くない。

世界を単純に見立てると、確かに格段に「生きやすく」なるだろう、
がそれがマヤカシであると、同時にすでに、我々は気づいているのだと「怪物はささやく」。

そのささやきに、ついに耳をかたむける少年の、
その試練を通過した後に何が待っているか、

結末を見届ける読み手が受け取るギフトの、
胸打つ余韻を味わいたい。


添えられたモノクロームのどのイラストも、
しげしげと見入ってしまう魅力を強烈に発散している。
イラスト単体もだが、
文章と合わさった時のページ全体の、色の配分が見事。


巻頭に置かれた引用文に、まさに本作主人公の年齢である「あの頃の感覚」が、
実に的確に表現されているのにも感心した(以下に抜き書き)。


若い時は一度しかないって言うわよね。
でも、その一度が長すぎると思わない?
長すぎて、とても耐えられそうにない。

――ヒラリー・マンテル『愛をめぐる実験』




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