家から個人へ/カーネーション(鮮やかな態度)

珍しくウィークディでの(最近の習慣的には一日早い)感想など。

今週は糸子がその時々の色んな思いで、店の看板を見上げる姿が印象的だった。


◇思えば丁度いま劇中で描かれている頃から、社会現象としての核家族化は広がりつつあったんじゃなかったか。
家制度への従属から個人の自由意思の尊重へと次第に移行しつつあった時代背景を抜きに、糸子と優子、それぞれの葛藤と衝突の実相に迫るのは容易ではないかもしれない。
糸子の家業の看板を引き継ぐことへの特別な思い入れも、優子の独立してどこまでやれるか実力を試したいという野心も、どちらの立場も言い分も分かるし、この二人の噛み合わなさの大きな理由の一つに、時代の変化(に伴う世代間ギャップ)があるのは否めないだろう。


◇火曜日の糸子の独り晩酌時の回想シーン以降、しみじみ感じてきたが、糸子と善作にもその「ギャップ」は横たわるのであって、
引き際を決意した際の、両者の置かれた状況の違い、善作の場合は生業の呉服商からして下り坂だったのに対し、糸子の場合は商売も順調、従業員も複数抱えて現役バリバリの身、であることから、引退が隠居(生業からの完全撤退)とはならないのだし、
また糸子は知らぬゆえ、善作が周囲に断りなく唐突に引退してしまった印象が強いのだろうが、我々視聴者は彼が(糸子の気づかぬところで)ご町内の面々に「娘をよろしく」と細やかな顔つなぎや根回しをしていたのを、つぶさに見て知っており、ゆえに、お父ちゃんみたくスッパリ引退とはいかない、などと糸子が愚痴るのに、そうでもないぞ、と善作擁護の思いが先走りもするのだ。

◇本日の回はとりわけ白眉だったオノマチ糸子の演技。普段以上に魅了される場面が多かった。

母(糸子)から家業を継がせる算段を進めていた事実を知らされ、少なからぬショックを露わにする優子が、それでも昌ちゃんの「独立する気か」と念押す問いかけに、涙ぐみつつもハッキリした口調で「はい」と返事した直後、
まるで平手打ちでも食らったかのように、糸子の顔面に緊張が走り、双眸がわずかに見開かれ、それから一つ息を吸い込んで表情を硬くする。
瞬間、オノマチの見せるその表情に息を止めた。ぐっと惹き込まれて。

優子の独立を選択するに至った胸中の、糸子を容赦なく刺しまくるトゲだらけな真実の吐露を遮って、ふん、と口の端を引き上げ、一抹の寂しさをにじませた自嘲にも、

店の前に佇み、頭上から聞こえるとんび(映像では直接映さないままの)の鳴き声に、空を振り仰ぎ、娘の独立を見届けたで、お父ちゃん、と善作に報告するモノローグにも、

同じく魅入ってしまった。気持ちを強く惹きつけて離さないあの表情、あの声に。


◇と直ちに、そう綺麗にまとめてなるものかとばかり、苦笑いを誘うトホホなオチがつく、脚本の匙加減の絶妙がまた。


◇かつて糸子が善作に投げつけた以上の、衝撃と破壊力ある優子の独立宣言。
店一軒繁盛させる実力をつけた、までのくだりは一緒でも、自分の実力を十分活かすにはこの店では物足りない(要らない)と、娘に良かれと思った家業引き継ぎの心積もりを、一刀両断、切れ味鋭く突っ返された母(糸子)の心情を思うにつけ痛々しいが、独立を望む優子を単純に我儘と責めるわけもいかず。
宙吊りになった気持ちの持って行きようがなくて呆然と、ただこれまで守ってきた看板を見上げるしかない親の(それも片親のハンデを、父の役目をも担うことで吹き飛ばしてきた強き母の)孤独が切ない。


◇優子と悟(←やたら影の薄い旦那)のギクシャクした仲が、さりげないやり取りの中に、何気ない仕草のうちに、露呈するのが興味深く。
異変に気づいた直子も、結局は何も言わないし触れない。この微妙な距離感がいかにも姉妹らしい。

◇その直後にひときわ派手に勃発する、優子と直子の日常茶飯事たる「諍い」の図。
聡子もまた(たぶんいつも通りの)我関せずのマイペースを貫く。姉貴風を吹かせる優子、それが癪に障り反発する直子。
やがて新年らしく(?)蜜柑の皮の投げ合いに発展するのもおかしいが、本日一番のツボは、姉たちの喧嘩の余波で、頭に蜜柑の皮のかけらを載せたまま、腕枕でTV観て(喧嘩の間中このマイペースをのほほんと貫いてた)笑い転げていた聡子か。
邪気のない(ように見えて、さりげに姉の歳をひとつ多く「言い間違える」のがウケる)笑顔が可愛すぎる。




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