宋銭と内大臣/平清盛(8)

いやあ第八回も面白かった!の一言に尽きる。

きちんと練られた脚本だからこその、
次々と立ち現れる登場人物を手際よくまとめた手腕に拍手。
複雑に綾なす人間絵巻を堪能できた回だった。

いまだ初回時の好感触が(そう大きくは)裏切られない今年の大河、
ここまでくると、安心して最後まで通して視聴できそうな気がしてきた。いいぞ。

◇朝廷という絶対権力の裏をかく「海賊よりたち悪い(by兎丸)」忠盛(演:中井貴一)のしたたか。
表向きは贅沢を山と積んだワイロ献上でお上の機嫌をとり、裏では禁じられた宋との貿易を、お上の目をかすめ、密かに独自ルートにて仕切る。

◇血縁にない清盛(演:松山ケンイチ)を疎んじる忠正おじ(演:豊原功補)、次男の家盛(演:大東駿介)を「次の当主はお前だ」などとそそのかすの図。
いつか咲かせてみせる腹積もりで、花の水やりはこまめに、欠かさず。
ちゃくちゃくと水面下での工作は進むのであった。

◇初登場の藤原頼長(演:山本耕史)のキャラが立ってること立っていること。
強烈キャラから目が離せない。

ぶつくさと小声ながらも院への批判を、本人から遠い席ではありながら公然と口にする。
閉じた扇子を大儀そうに動かし、酒盃に浮かんだ菊の花弁をひとつ残らず取り除く神経質な仕草に、その性格が凝縮されている感じがする。

重ねた本の乱れをきっちり揃え直し、重箱の隅的ミスを理由に庭師を解雇する。
彼という人間の中で、几帳面と酷薄は表裏一体のようだ。

◇清盛が妻の明子(演:加藤あい)に宋渡来の紅を贈って喜ばれ、それでもう気の利いたことも言えず、照れ笑いするのが何とも可愛らしい。

マツケン清盛を見ていると元気が注入される。活気が伝染してくる。清々しい気分になれる。
素直でまっすぐで、おおらかな愛嬌ある気性の清盛像にマツケンははまり役。

◇鳥羽帝(演:三上博史)と璋子(演:檀れい)と得子(演:松雪泰子)の三者三様の心情を、水仙から菊への、庭の植え替えによせて語らせるのがいい。

「もう水仙はない(璋子は遠ざけた)」と事実を突きつけて念を押し、
もはや璋子など脅威にあらずと気にもとめない得子、

それを溜め息のようなぼんやりした口調で鸚鵡返しする帝の、
未だくすぶる璋子への未練、

失ってみると懐かしくも気になる、とかつて水仙のあった庭を見てつぶやく璋子の、
帝へのおそらく初めて芽生え始めたであろう興味。

◇崇徳帝(演:井浦新ARATA)と佐藤義清(演:藤木直人)の怪しげな関係の行方も気になる。これもサービスサービス?

◇先のシーンで陶磁の酒盃から清盛の名を知った頼長が、宋銭と鱸丸(演:上川隆也)の呼びかけから、いま目の前にいるのがその男らしいと清盛の実像を認識するくだりが、ベタでもわざとらしくなく、スムースな流れで巧いと思った。

◇兎丸(演:加藤浩次)の叫び、オモロイっちゅうんはそういうことじゃ!には、良いもの優れたものを、分け隔てなく皆が公平に接する機会が、場が、必要だとの主張が込められている。見かけはアレだが(すまん何度も)マジでいい奴。

◇由良姫(演:田中麗奈)が源義朝への接近を開始。おー。
実家に単身おもむき、父・為義(演:小日向文世)に、自分を嫁に貰うといかに得であるかを熱心にアピールする、度胸のすわり方が可笑しい。
そのたびに「父の言いつけ」だと、思わぬ大胆な行動に走ったことへの恥じらいからか、体裁を気にして慌てて付け加えるのも。
どれだけ義朝(演:玉木宏)ラブなのかと。微笑ましい。

◇そして今回のクライマックスたる、為義が献上したオウムから端を発しての、対決シークエンス(「対決」を半ばお約束的に挿入する、脚本の盛り上げサービスが嬉しいじゃないか)。
誰がどこで誰と取引しようが良いではないか、と、平氏によるご禁制破りの貿易の件を嗅ぎつけ、容赦なく追求する頼長に対し、勢いまかせに正論をぶつける清盛。
朝廷の定めた不公平極まりない「法」自体が、不当ではないかと熱弁をふるうも、頼長には愚かと一蹴され、当然ながら聞き入れてなど貰えない。

マツケン清盛は、自分や平氏の利益のみを願って反発したのではなく、理不尽な格差に苦しむ民全体のために、不公平の是正を訴えたのだったが、
正論をそのままぶつけても、権力はビクとも動かないと思い知らされる。
そんな、未だ絵に描いた餅でしかない理想を持て余す清盛に、

いつかお前がそんな世を作れ。
そん時は手伝ってやってもいい。

素っ気ない素振り口ぶりに、兎丸の温かな友情が滲み出る。いいシーンだ。

◇おもむろに解説役の高階通憲(演:阿部サダヲ)が登場、頼長自身にあらためて「腹積もりを問う」スタイルを用いながら、ワイロを貢いでくれる美味しい平氏を、朝廷が咎めないと先読みしての、あれは頼長の清盛に対するキツイお灸(釘刺し)だったと、裏事情が明かされる。
いい感じでエンタメしてるなァと嬉しくなった。ベタさの加減が絶妙ですな。

◇先週の視点(定点)役は時子(演:深田恭子)だったが、今週は家盛の密やかな逢引きシーンで始まり、逢引きで〆る(オチる)構成。サンドウィッチ構造は全体がきれいに締まるのが良さかと。
両思いだった女子を蹴って縁談話に乗った、すなわち叔父のそそのかしに乗った、というわけか。その面持ちに、心境変化のさまがありありと窺えて興味深い。
あれは、いつまでも可愛い(無害な)弟で終わらない決意を秘めた、力に対する野心に初めて自覚的になった男の顔だった。

余談。

白状すると、藤原家成役をずっと桜金造だと今まで信じて疑わなかったんだが、
違った、佐藤二朗だった。えええええ。←千代さん風
そして当の桜金造は、今回ちらっと出てきたエセ中国人みたいな役だった(たぶん)らしい。
それでも佐藤二朗の方がご本人より桜金造の「イメージに近い」と感じるのは何故。
はて。どこで、また何がきっかけで、そんな刷り込み効果が(悩)。



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