オペラ座の怪人inロンドンから、2004年の映画を思い出した。


オペラ座の怪人』25周年記念公演inロンドン、をWOWOWで視聴しての、
とりとめのない雑感。

オペラ座〜』初体験が2004年の映画なのもあり、舞台美術や演出に
当該映画の影響が色濃く反映されていたのが興味深かった。たとえば
金色の人物群の彫像を配した壁面装飾、総スワロフスキーで飾られた豪華なシャンデリア、
背景スクリーンに映し出される(室内含めた)諸々の景色など。

しかし何故か、劇中音楽のフレーズを聴いても、誰それの台詞、もとい歌を聴いても、
ことごとく映画での同様の場面を脳裏に思い描いてしまう、いつの間にか。

映画での主演三人(ファントム、クリスティーヌ、ラウル、役それぞれの俳優)とも、
まだ駆け出しの新人で大抜擢だったはずで、その若さや未熟を、
与えられた役になりきる熱意と、ひたすら全力投入する勢いとで三人ともが補っていた、
逆に若さや未熟であればこその活き活きした、また初々しい(期間限定だからこその)
スペシャルな輝きを感じた事を、懐かしく思い出した。

ライバルの出現に思い溢れるあまり、地下の隠れ家に連れてきてしまった最愛の少女に、
好奇心から仮面を剥がされた瞬間、弾かれたように激怒を露わにする「亡霊」を自称する男。

お前を呪ってやる!などと叫ぶその声は半分泣いていて、痛ましかった映画のファントムは
心ない者に傷つけられ、人間不信を募らせた野良猫を思わせるところがあった。

急に人が触れようと手を伸ばすと、ものすごい勢いで毛を逆立て威嚇するのも、
何をされるかと怯える警戒心から。
その辺の心情の機微が、真に迫っていたジェラルド・バトラーの演技(というか殆ど
役に自らが乗り移っていた印象を受けた)は実に見事だった。掛け値なしに素晴らしかった。


舞台のミュージカルならではの卓越した歌声もいいが、役と役者が一体化した存在感の
強烈さでアピールする映画版も、忘れがたい思い出。俗っぽい大味の二流映画との謗りも
気にしない、一向構わない、あの映画の魅力はシネフィル的観点からだけでは、とうてい
理解し難いだろうと思う。

クリスティーヌがThink of me をフルで歌う場面が、映画では(ガラか何かの設定だったかで)
真っ白のドレス着用だったのが、舞台では劇中劇ハンニバルの雰囲気に合わせた、
ヴィヴィッドな極彩色衣装になっていて、なるほどと面白く観た。

お芝居終了後に、初代ファントム役のマイケル・クロフォードが登場し、大いに盛り上がるロイヤル・アルバート・ホール。
これで初代ラウル役(ロンドン)のスティーブ・バートンがいてくれたら、と今ではかなわぬ夢を呟いてみる。
(癖のある歌唱がどうにも苦手なサラ・ブライトマンには、相変わらず関心薄いのである)
クロフォードの人柄の良さは、笑顔に、仕草に、また去り際に会場へ感謝を込めて
大きく両腕をふる行為に、如実に顕れていると思った。

過去の歴代ファントム四人による、リレー形式での Music of the Night は聴き応えあり。
歌唱の際の声質が往年のクロフォードに激似(じゃないかな)のペーテル・ヨーバックに、
外見も声質も紳士然としたジョン・オーウェン・ジョーンズの歴代ロンドンキャストの二人に、
なかでも惹きつけられた。
JOJには歌声にしろ存在感にしろ、「あの男」らしい色気が漂っていて好感。

本記念公演にてファントム役を務めたラミン・カリムルーが、映画版でのクリスパパ
(写真でのみ登場する)とのトリヴィアを公式サイトで知り、またなかなかに感慨深く。

出演者一同が舞台から引き揚げた後、今回のファントムことカリムルーが出てきて、
客席に最後のご挨拶ポーズをしてるところへ、後ろからシエラ・ボーゲスのクリスティーヌが
茶目っ気たっぷりにカリムルーの腰のあたりに抱きつき、互いに顔を見合わせ笑い合うと、
彼が彼女をおもむろに抱き抱えて退場する、という、果たして演出なのかそれとも偶然の産物なのか、
兎に角あれは可愛らしかった。
二人の弾むような若さがストレートに出た、何かほのぼのと微笑ましい締めくくりだったと思う。



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