祇園闘乱事件/平清盛(13)


中島由貴演出の時は、輪かけて舞い飛ぶコーンスターチの量が半端ない。
前半の比叡山の坊主どもの強訴に、平家や源氏の衆が衝突するくだりで砂や土煙が立つのは一応分かるとして、なぜに室内まで、もうもうと濃霧みたいなのが真っ白に立ち込めているのか。
何でもかんでもぼやけてて、サウナルームみたいだ。
いやすでに密かにサウナ演出と名付けてたり。
使用例→「ああまたサウナ演出はじまったー」など。

映像の色味的には、サウナ効果が邪魔してイマイチ好きになれないが、今回の演出自体はキレもあり、間合いやタメとのバランスも良くて、なかなか見応えあった。

やはり圧巻は清盛と鳥羽っち(すでに愛称化)が対峙するくだりだろう。
幾筋もの白光する直線が、窓枠から漏れ射して床に反射し、再びまばゆく跳ね返る、という照明のお仕事ナイス。
床の上に形作られた光と影とのコントラストもいい。
(これでもう少し輪郭にメリハリがつけば申し分ないんだが。全体的にぼやけていると締まりがなくて、あと一歩惹き込まれないというか)

初めてではなかろうか、ここまで大胆にとった、台詞から台詞までの間合いの長さは。
台詞任せでない、役者の力量と演出の補佐力に委ねる余白が劇中にあるだけで、シーンの魅力が三割方は増すかもしれない。

自分の中でとぐろを巻く(感じに近いのでは)白河院の亡霊を、すぱっと射ぬいてくれた(たとえそれが射ぬく仕草であっても)松ケン清盛を、狂気一歩手前のやばいテンションで絶賛しまくる鳥羽ちゃん。
自信なさ気なしょぼくれ具合がいと哀れ。
璋子、ユーレイになって戻ってきてあげて。
芝居がかった大袈裟な身振り口ぶりを、つい面白がって(興奮しすぎて血管ぶち切れそう、とか)見てしまう外野の薄情よ。


忠正おじさん、身重の時子に酷な失言をしたと反省し、わざわざ後から彼女に詫び入れに清盛宅を訪れるとか、根はいい人なんであるなあ。

時子の子が生まれたら、先妻の子たる我らは、母上(時子)に疎んじられてしまうのではないかと、小さな胸を痛める幼い兄の清太に、「左様なことは断じてない!」と複雑な胸のうちを押し隠し一生懸命励ます、無骨な優しさってのが憎いやね。

父忠盛が、母舞子のことを清盛に語るのは、もしや初めてという設定なのか。
子にとっては赤子の時に衝撃的な死を迎えた母の最期や、人となりに関する情報など、もうとっくに知っているかと思いきや。
まあここで第一話で果てた母舞子を出してきたのは、構成上の都合以外なかろうとわかっちゃいるが。今頃になって在りし日の母を、父から息子へ語り伝えるの図は、少々のわざとらしさを感じなくはない。

今は亡き人の姿なき影響力に振り回される苦悩。宗子は舞子に。鳥羽っちは白河院に。

皆が平身低頭し有り難がり、同時に(祟りを)ひどく畏れる神輿(しんよ)にまつわる過剰な迷信に、一人悠然と立ち向かった清盛のクソ度胸。
「あんなものはただのハコだ!神など宿ってはおらぬ!」
坊主どもが力の拠りどころとすがる(そして不当な要求をゴリ押しするための)心強い道具を、
単なるハコじゃないか(王様は裸じゃないか)、
思ったことを、皆が尻込みする中、そのまま行動に移し、堂々蹴散らす痛快さ。

今回の松ケンの、胸のうちにゆらゆら立ち上る不敵な考えを、直裁的におもてに出すでなく、パワーを内包しひたすら溜め込み、沈思黙考する(のように見える)、
遠くの一点に注がれた、しかしどこか熱っぽい静かな決意を感じさせる揺るがぬ目つき、
内にこもる、表層の能面の薄皮一枚に隠れた野心と男気が、
全身からむわっと臭う(匂う、ではなくて)くらいに発散されている感じが、とてもいい。

時子に失言を詫びに行った清盛宅にて、偶然時子のお産と重なり、家中の者が大わらわとなる中、なし崩し的に清太と清次の幼き兄弟の世話を頼まれ、頼まれたとおり、遊んでやってる忠正おじさんの、ダメ押し的いい人アピールに、不安を煽る仕掛けを見たり。家盛けしかけた因果が、さてどう出るか(含み残す)。

その家盛、母宗子が目の当たりにした、亡き舞子の忠盛に及ぼす、今だ衰え知らずの絶大な影響力に(鹿のツノの髪飾り、だったか)さすがにショックを受け、苦悩する様子を偶然見たのがきっかけで、
跡目争いにようよう名乗りを上げたわけだが、ちょっと待て、いまさら何の寝言かと。

母のために兄を支えようと、申し分ない理想的弟像を演じる一方で、初恋を蹴って父の勧める縁談を受けるとか、矛盾だらけなのは、
たぶん自分が何を本当は欲しているのか、よく分かってなかったんじゃないか。
来週あたり「実は兄上のことを以前より憎んでおりました!」なんぞとベタな告白しそうな予感。

子供らをあやす忠正の元へ、伊藤忠清@大男が駆け込んできて、
忠盛清盛親子に(罰金刑のみの)致命的お咎めなしな沙汰が下ったと告げる。
するとそこで場面が切り替わり、今ちょうど報告を終えたらしい従者が立ち去ったあとの室内で、
満足気な微笑みを残し、自身もおもむろにその場を辞する信西と、頼長の悔し涙浮かべた目元のどアップだけで、台詞一切なし、
視聴者の想像力にゆだねた演出(と演出段階で台詞削ってないなら脚本も)の引き算が効いていた。

父忠盛と鳥羽っちに、お前はこの世に必要な(世の中を変革するよう定められた)存在だと認められ、平氏を継ぐ自覚を強めたらしい松ケン清盛の、こないだまでの脳天気ぶりとは明らかに異なる、きりりと引き締まった表情変化を、今回は堪能した。
って最後は松ケン褒めて〆るパターンが定着化しそうでアレだが。
なにせ今のところ、本作の興味の対象がダントツで松ケンなので仕方がないのだ。
本作の松山ケンイチから、いわば一瞬も目が離せない状態。





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