平清盛に思うヒーローに求められる一貫性


第20回『前夜の決断』を踏まえて。
本番組の感想書くのに二の足踏む時は、たいていスルーで済ませてきたが、
今回は試しに書き留めてみることにする。
ここ数週にわたる引っ掛かりにも関連することなので。

松ケン清盛が視聴動機の一番にくる(過去形にしたくない出来れば)者として、
疎かにできず釈然ともしないのが、
父忠盛を喪って以降の、清盛の言動のブレ。

あれは忠盛の死の直前だったか、鳥羽院との仲を割かんと工作する得子のデマを信じた頼長によって、
無実の家成邸が襲撃された際、その無法に激怒した同院により
頼長懲罰の出兵が平氏に要請され、忠盛を囲んで皆が思案する中、
「朝廷内のイザコザにいつまでも我々武士が利用されてはならじ。この剣にかけて武士の世を目指す!」
とか何とか、確かに清盛は言い放ち、それを忠盛は頼もしきこととばかり承認、
(冷静に考えてありえなくないかと疑問ながら)院の命令をスルーした経緯があったのに、
先週の鳥羽院崇徳院の仲を取り持とうと奔走するキヨモリ、とは一体なんの冗談かと思う。

鳥羽院がコロコロ変節繰り返すのは「そういう」キャラだと百歩譲っても、
なんで主役の清盛までを、武士の世がどうのと大言壮語する者とは思えん軽々しさで、
前言撤回繰り返させるのか。何が悲しゅうてこんな生き恥を晒させるのか。
父に誓った志を簡単に反故にし、熱心に真逆をやる奴のどこに魅力を感じろと。

そうやって双方に散々甘言ばら撒かせ、うっかり信じた崇徳院に土壇場で手の平返し、
従者たちの前で完膚なきまでに上皇の面目潰すとか。
ないない。フィクションの限度超えてると思ういくらなんでも。
敬い奉るべき上皇を平然と辱めるなど、もうすでに「(驕れる)武士の世」になっとるではないか。
清盛のおのれの分をわきまえぬ横暴に黙って耐える崇徳ちゃんも何でだか、そこ耐える意味が分からんさっぱり。


清ちゃんが理想論ぶちまけようとこだわろうと、その主張が一貫してれば構わない。
何があろうと理想を貫く強靭な意思と行動を示す者への中二病呼ばわりは中傷にしかなりえない。
自らの掲げる理想に生きた人、たとえばガンジーキング牧師マンデラ等に我々は同じ侮蔑を投げるだろうか。

たとえ変節するにしろ、並ならぬ覚悟の上でなら、以後は簡単に決めた志を翻さないなら、それもアリと許せる。
けれど(忠盛の言じゃないが)体の芯に一本揺るがぬ信念が通っておらず、
絶えず人の言動に振り回されたり、度々主張を翻したりするのは絶対にNG。
武士がどうのと威勢よくぶち上げる以前の問題。
頭も口も軽いチャラ男では、大河の主役の器として相応しくないと思う。

とはいえ謎のチャラ男化も先週までの迷走ではあって、今回の清盛は、後白河とのサシでのやり取りや
忠正叔父のまさかの(←キヨにとっては)翻意など、「苦痛」をひたすら耐え忍び呑み下し、
歯を食いしばってでも次へ進もうとする、秘めたる闘志とタフな気概が何とも良かった。

ただ宗子が重仁親王の乳母という、いうなれば平氏一丸となって戦う前提の足を引っ張る立場である我が身を
失念したかのように、上皇方につこうとする頼盛を引き止めたり、忠正叔父に釘刺したりするのには違和感もあったが。
そこは無しになってるのか設定上。
別に宗子アゲのために清ちゃん狂言回しにせずとも、平氏存続の保険(こじつけキツイが)に
宗子の立場フォローも兼ねて上皇方につく叔父貴と、その決断を苦しみながらも受け入れ
心で詫びる清盛、で良かったんじゃないのか。

それを言ったら忠通の空気化にも引っかかりはありはする。
保元の乱は今上と院の対立以前に摂関家内部の勢力争いだから、美福門院&忠通を差し置いて
頼長VS信西と捉えるのは構図として単純で、本来信西は漁夫の利狙いポジが妥当だろうが
「後白河をとことん格好良く持ち上げる」ために信西アゲが必要だった、書き手の裏事情ゆえと読んでいる。

頼長が悪左府と称される経緯も、忠盛に清盛に家盛、といった平氏限定での意地悪くらいしか
(家成邸襲撃の件は、得子のデマにまんまと乗せられたという書き方だったんで)描写がなくて、
劇中にポンと置かれたクレジットで済まされたのも気になっていた。
ブチ切れたら手に負えないキ印な面をもう少し説明的にでも挿入しておけば、より観る側に親切だった気がする。
いかに「八つ当たり」による理不尽な暴力沙汰を起こしても、狼藉働いた本人は身分により一切のお咎めなし、
運悪く標的にされた者は泣き寝入りしかない、という事件を重ねた結果、
恐れられ憎まれ煙たがられる存在になった、のはずが、単に平氏をセコく虐めてた印象しかないんで。
あとあの白いオウムと。

でももうじき崇徳(井浦新)も頼長(山本耕史)も忠正(豊原功補)出番終了ではあるけど。
忠正叔父アゲも凄かったが、実際味わいあるいい男だった。
先週の「俺か?」と立ち上がりかけるボケも笑ったし。
楽しみが減るのは否めないが、後半がどんな布陣(新規参入の俳優陣など)になるのか
そちらの楽しみに期待しよう。





.