平清盛(22)/勝利の代償

「朝敵」として追われる身に転落、僅かな配下を従え山中を落ち往く崇徳ちゃんの高貴さが醸す
儚げな風情が素晴らしかった井浦新や、
同じく逃げ落ちる途上で首に矢を射掛けられ、瀕死の体で父忠実の元へたどり着き「一目父上に会いたい」と願えども
哀れ叶わず(拒絶され)、舌をかんで自害を図る(史実では更にここからじわじわと時間をかけて死に至る残酷物語だったり)
我が儘頼長の壮絶かつ孤独な最期を熱演した山本耕史や、
すごろくの相手を申し出た美福門院から、キツい牽制の一撃をお見舞いされ、とっさに屈辱にわななくも
そんな自らに「生」の手応えを感じ、目を爛々と輝かせて興奮する後白河帝坊や(ちなみに本来「正しく」中二病と呼べるのはこちらで、清盛は「斜に構えてない←大事な判断ポイント」から合致しないはずだが、感情を基とする悪意に理路は通用しない好例かも)を
毎回活き活きと存在感を打ち出して好演している松田翔太、といった「輝ける三大脇キャラ」は言うに及ばず、

義朝や信西などの安定脇キャラの印象にも届かない、依然として主役の取り扱いだけが
なんだか「異様にズレている」本大河。
視聴するごとに確信に近づくのは、どうやら藤本有紀脚本は脇キャラを無理に持ち上げるため生じる
辻褄の稚拙や矛盾のしわ寄せを、主役一人におっかぶせる算段らしい、ということだ。

今回も毎度の例に漏れず、清盛と忠正の絡みシーンだけ他のエピから奇妙なまでに浮いて
いかにも空々しく映るのだったが、
それは露骨な忠正アゲ展開の無茶振りにそもそもの歪みがあるからで、
平氏一門団結の障害というなら、むしろ忠正の離反こそ、棟梁の意向を無視し一門の結束を乱す
許されざるスタンドプレーとして非難されるべきもののはずなのである
(少なくとも本大河の理屈ではそれが順当な流れであるはずだ)。

劇中で忠正の離反の根拠とされた、甥の頼盛が上皇方につこうとした身代わりに、というのも、
頭に血が上った頼盛を冷静に諭した上で、一緒に平氏方に戻ってくれば済む話なわけで、
忠正が上皇方についたことに対する第三者が納得できる理由にまったくなり得ていない。

なのにその意味不明な理屈が、劇中では誰一人疑問を持たないどころかなぜかドヤ顔でまかり通っており、
池禅尼までが忠正と一緒になって「清盛の尻拭いも大変」などと陰でいたわり合う始末である。

どちらかというと一門の足引っ張る言動やらかしてんのが忠正や池禅尼なのは
(史実を持ち出す以前の本大河の流れからしても)明らかであるのに、なんだろうかこの理路を転倒させてまで
主役サゲに徹したがる脚本家の意図は。

忠正は「清盛に信を置けず裏切った」平氏全体よりおのれのエゴを優先させた、で何も問題ないし、
それを食い止めようとして食い止められなかった清盛の力及ばずの無念、という風に展開させれば
主役もちゃんと引き立つのである。

何故そういうシンプルな構図をあえて却下してまで、松ケン(松山ケンイチ)清盛から持ち前の魅力を
奪おう消し去ろう影を薄くしようと躍起になるのか理解できない。
いったい中二病とは誰のことだよとすっとぼけてみたくもなる。

それから前回記事でも言及したが、
藤原摂関家の確執をちゃんと描かずして、平安時代の覇権争いを描ける道理がないのに、
結局上っ面をかすめただけで通り過ぎたのはいかにも勿体無かったと思っている。
踏み込んで描いていれば、今までにないタイプの人間心理の奥行きを備えた重厚な歴史ドラマに
なり得たかもしれないのに。
歴史ドラマに脚色が必然だからといって、歴史に名を刻んだ傑物の類をわざわざ矮小化する意味が分からない。
それでは歴史ジャンルに拘る意味がないと思うがどうか。

映像面(俳優の華やかな競演や美術などを見る楽しみ)を除く本大河の内容(ぶっちゃけ脚本)より
遥かに双調平家物語を読む(読み返す)面白さが優るというのも困ったもので、
理想は着眼点やテイストの違いとしてどちらも楽しめるのが望ましいんだが、あまりにも力量の差が開きすぎていて
比較する気にもならないのが現実ではある。
橋本平家を読んでしまうと本大河の欠陥が余計に際立つという意味では、
是非にと一読を薦めるのはやぶ蛇かもしれないが。


余談。
NHK「平清盛」はなぜ面白くないのか』と題する興味深いコラムを読んだ。

>これほど豊富な素材があるにもかかわらず、ドラマが陳腐なのは、「歴史そのものを再現するだけでおもしろい」という大河ドラマの基本を、忘れてしまったからではあるまいか。

最後の一文に同意である。
最近の大河は少々、いやだいぶ現代に即した解釈が入りすぎて、かえってここぞという肝心部分が
ヘンに歪められている、もっと言えば貶められている印象が、何年も前から(遠巻きに眺めつつ)漠然とあった。
そのことも、長い間大河ドラマを観たいという気が起きなかった理由の一つではあったのだが。

もっとこうスケールのデカい、渋く重厚な構えの本格大河を観てみたいんだが、そんなに需要ないかね。





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