はつ恋(5)/ True Heart


回を追うごとに切なさ成分がより増量されている気が(ただし三島を除く)。
さりげにウル目エピ入れてくるタイミングの巧さに引き込まれる。

まだ小さい健太の「大きくなったらお医者さんになる」宣言には、健太パパこと潤ちゃんの
男泣きにつられてもらい泣き。

泣くよそら。妻の緑(ミドリ)と築き上げた夫婦そして家族の絆を危うく脅かすかに思えた男の職業に対し、
小さな息子はただ純粋な気持ちで、母の生命を救ったあのお医者さんみたいになる、と夢を語るのだから。

大人たちの思惑など何も知らない息子の穢れなき夢語りに、虚を突かれ無意識に緊張してしまう自分の
不甲斐なさを振り切るように、おかしいくらい張り切って真っ先に立ち上がり、おー立派な夢だと拍手する
潤ちゃんの切ない胸のうちに泣けた。好感度急上昇だ。
(男泣きと共にたぶん演じる青木君のアドリブがかなり効いてると思う、GJ!)


おー今朝のご飯は気合入ってんなー、とミドリのいる方へ素朴な感嘆を装い声をかける潤ちゃん。
その心は「隠し事でもあるんじゃないのか、あるなら言ってくれ」に決まってる。これまた泣けるぜ。


三島から「あの時の真相」を聞きそびれたが、自分から連絡していいやら迷いつつも
気になって手にしたケータイを勢いで開くと、目に飛び込んでくる待受画面には
夫と息子がこちらに向かって微笑んでいて、冷静に引き戻され、ケータイを閉じる、を
二回ほど繰り返した挙句、エプロンのポケットにしまうミドリにも、

キッチンで食事の支度途中、そのエプロンのポケットの中にあるケータイが気になるも、
外に取り出すのも躊躇われ、そっと布地の上から手を当てていると、母のその動作に気づいて、
手術の傷が痛むのか、と心配げに聞いてくる健太にも、

いちいち胸キュン発動であった。
奥さんも子供も可愛いよね、そしてひたすらミドリ一途!な潤ちゃんも。


対して。

16年前(だったか)の三島が緑に手酷い拒絶の言葉(君を好きだと思ったことは一度もない!)を
投げつけた理由が、師と仰ぐ教授の執刀ミスの責任を、代わりに取らされた事に起因する
「すべてのしがらみを捨てたかったから」というのは、相手の心を推し量る余裕(想像力)に足りない
若気の至りとしてアリと認めても、

「出会った日から君を想わなかった日は1日もない」と女心にヒットすること確実な殺し文句を
メールするわりには、その後16年間という長きにわたり、緑が受けたであろう心の傷を放置してきた
男としての責任は、ケジメはどうなるのか、

ちょっとそこのところ中園ミホ脚本は、いい加減に流しすぎじゃないかと思う。

女の葛藤は丁寧に描けても、男の葛藤は意図的に省いてんのか描けないのかは知らんが、三島にとって
ミドリとはどの程度の優先順位として位置づけられていたのか、疑問をもった。
ミドリと、いわゆる「都合のいい女」との違いはどこにあるのかと。

ミドリのことを16年も放置した罪悪感もそこそこに、すぐ「ドリ」と当時の愛称で呼ぶ軽薄さからし
違和感ありまくりだったが、それでも何か深い事情があるんだろうくらいに考えていた。
やはり最初のいけ好かないヤローな直感は当たっていたということなのか。

1日たりとも忘れたことのない最愛の女に、決定的に傷つけるに違いない、ありえない暴言吐いて、
それを16年も放置できる神経が、わからない。
もっと早く会いたかった、なんて今さらの言い訳も、独り言ならまだしもミドリの前で愚痴るのは
女に甘え過ぎだろう。

ムード重視のオーベルジュ(←あらすじより。まるでお泊まり狙ってたみたいでなんだかな〜)に
呼び出して自分ばっか語るなよと。緑の愚痴だって聞いてやれよ、さり気なく聞き出してやれよと、
努めて微笑みを絶やさず穏やかな表情で聴いている彼女の、痛々しさに気付けない自己中男の愚痴語りには、
悪いが白けてしまった。

誤解を解かなかったのも会おうとしなかったのも、結局は三島自身が選択したのであって
誰のせいにも出来やしないのだ。
なのに運命に弄ばれた的な言い草に逃げるのは、「最愛の女」に失礼というものだ。

会う決心がつかぬまま、ずるずると16年も先延ばしにしてきた、と何の格好つけずにありのままを言う方が、
まだどれだけマシか知れやしない。

いったいミドリは三島のどこに惚れたんだか。一体どこが潤ちゃんよりいいんだっけか。


なぜ中園ミホ脚本は、ミドリのことを16年も放置してきた自己中な三島に、せめてこのまま
(ミドリを男性不信に陥らせた最低最悪の元恋人にして幼馴染みという)憎まれ役に徹する覚悟を
させてやらなかったんだろう。
過去を無視した(手順を踏まない不誠実な)馴れ馴れしさよりは、三島の行き着く感情としてわかる気が
するんだがな。三島はそう秘かに決意していて、だが途中でミドリへの愛情が理性で抑制できなくなり挫折
(つい抱き寄せてしまい云々)、さらなる罪悪感に苛まれるとか、そっちに展開してくれたら
まだ好感は失せなかったかもしれない。まだ男としての最低限の格好もついたんじゃないか。


それでも海沿いのバス停で三島が、ミドリの今ある幸福(な家庭)を壊さないと決意するシーンから、
自宅で夫と息子の賑やかな声が背後の浴室から響く中、ミドリが三島から届いたばかりの別れのメールを
胸の潰れる思いで消去するシーンまでの盛り上がりは、素晴らしかった。
渾身の演出にどーんともってかれた。
主題歌流すタイミングの絶妙にまんまと乗せられて、ウル目。
その余韻を引きづって最後に流れる時にも、またウル目。
主題歌効果は絶大なんであった。





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