梅ちゃん先生/巣立ちのとき(第14週・79〜84)


将来の目標をはっきり見定め自覚し、父に玉砕覚悟で「開業したい」と直訴する梅子を
「ゆるさん!」の一点張りで頑としてはねつけようとする建造、この父娘の攻防戦に
建造の脳軟化症発覚→強制入院の流れから、ここぞと勢いづく下村家の女たちが絡む、しょうもないほど
人間くさい困った性(サガ)が可笑しい。

病院のベッドに横たわる建造の寝顔を無言で見つめる女三人(芳子、正枝、松子)の胸に去来したのは、
一家の長という絶対権力者の統率と圧政に抗する術なく従い、常にその顔色を神経質に気にしてきた
過去だったろうか。

「私たちは梅子の味方だから」と盛り上がる女たちはもちろん、梅子に我が身を託して、
これまでのような建造(男)のつきつける理不尽に、容易く屈する気はない私たち(女)宣言をしているわけだ。

振り返れば梅子の医専受験の時からあからさまになった、下村家の女たちの一致団結の図、ではある。
さらなるパワーアップに、戦後の男女の力関係の変容が示されているのかと。

調子に乗ってつけ上がる女たち(わはは)の勢いを押し留めたのは、誰あろう梅子だった、という
収束の仕方に納得。
父の弱り目につけ込むんじゃなく、正々堂々向きあって開業を認めて欲しい、との純な心情語りで
ポイント稼ぐとはなかなか、いやなんでもないない。

この男女の二項対立構造になりそうな危険を回避し、建造を諭す役回りを同性かつ同年代(と見た)の
坂田に割り振るのは順当な判断。
頑なに閉じがちな建造への説得役は、この男以上の適任はいないんじゃないか(たとえば陽造叔父では
水と油な関係の弟ゆえ「反発」が先にきそうだ)。

好物なのに病気のため止められている饅頭を、坂田に目前でがっつり食われて、
「ああっ!」と二度も声を上げる建造がウケる。
愛嬌に乏しい男のもつ可愛げを熟知する尾崎脚本。
ここは自己愛の強さの証明かと突っ込んでみたい(毒舌承知で)。

坂田に大人の男を感じてぼーっとなる弥生。
純粋培養の箱入りだけに危なっかしいよろめき方である。

海千山千の熟年オヤジにかかっては、可憐な小娘なんぞいいように転がされる。
手を握っただけで守るべき秘密を喋らせてしまえるのも、自分への好意をいち早く見抜いたからこそ。
そうやって喋らせといて、第三者に平然とバラすのを見せつけ、相手(弥生)が困れば、
「そんなに困るんならどうして話したんだ?」などと言う。抜け抜けと。ちょっとオヤジ調子に乗りすぎ。

建造が倒れた影響は第一内科にもおよび、調整によって急遽、新たに担当する患者となった涼子の、
一日も早い短距離走選手への復帰の夢を叶えてやりたい梅子だったが、
彼女にギランバレー症候群を告知する時の、努めて決然とした口調に、
どこまでも頼りなかったご近所の娘さんの成長の跡でも目のあたりにする心境で
ひとり感慨に浸るなど。

涼子ちゃんの告知によるショックとか内面の葛藤がないわけないのに、あえて省略し、
「他者のため」精神が人から人へ伝搬する、おせっかいという名の善意の連鎖エピで〆たのは賛否あろうが、
ここまで敷いてきた作風準拠の意味では、ある一定の限界を超えてヘビーにしないお約束に則った
適切な判断にして、視聴者が最後に目撃するのが、ツンデレ涼子ちゃんと下僕な彼氏の微笑ましいやり取り、
というのは、本作的にはこの上なく正しい流れと思った。

どんな題材も長くは引っ張らない、いわば4コマ漫画を範とする(たぶん)ライトドラマに
通常のドラマ展開を望むのは無意味の極致だろう。

松岡が梅子に渡した、開業に必要な予算の見積書、は遠まわしに彼女の意思をくじくためだったと判明。
そうか、だからあんなに金額張ってたのか。ちょっと高額すぎる気はしたんだが。なるほどなあ。
意外とカワイイ奴だったりする敏夫。

しかしあれはどっちなんだ、建造に梅子との仲を認められたも同然の発言を、まるで気づかない(かに見えた)
KYな反応は。天然かそれとも故意にか。はっきり判別がつきかねる微妙さ。

お父さん(建造)、入院したことで内省の大切さを学んだと松岡にしみじみ語る。
つい意地を張ってしまう自らの大人げない態度を反省してみせる。
だがしかし。んなもん退院したらすっかり忘れる、に今のうち一票投じておくぞ。
仏頂面のカミナリ親父キャラは最後までキープで宜しく。

大学病院を辞するにあたっての梅子スピーチ。
「いろいろと勉強になりました。
その御恩を、これからは町の人を治療することで返していきたいと思います。
ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました。」
感謝のココロ、素直なココロ、美しいですな。
忘れちゃならない一人で生きてるわけじゃないこと。
お世話になってます、色んな方に、気づかぬうちにも。そんなもんです。

下村医院、院長下村梅子、の看板に、ついつい笑った。
ママゴトにしか見えなくて(えーと今はまだちょっとな)。

一人なのに院長って(by信郎)
馬鹿野郎、これから大きくすんだよ!(by幸吉)
ありがと、でもまずはここから!(by梅子)

の三段オチ(あれ違うの)にもウケました。

まずはここからって、梅ちゃん意外と野心家じゃないか。
いったいどこまですっとぼけてくれるやら。失礼ながら笑いすぎて涙目に。

頑張れ梅子!と正蔵ナレが励ます声を聞いたか、笑顔でコクンと頷く梅ちゃんに、ムズっときてたら
案の定、看板が倒れかかるアクシデント発生で〆って。
これからの前途多難をお楽しみに!と
梅ちゃん弄りを推奨するスタッフの「全て想定内です」的な余裕とお見受けした。いいねえ。

で。もう開業医になっちゃったか。この先の展開がますます予測つきませんなこれは。








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